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Channel: スポーツナビ+ タグ:畠山和洋
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苦悩の純度

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ヤクルトの畠山和洋は専大北上高時代から悪童の定評を築いており、プロでもかけ出しの二軍時代、打撃練習を1時間やれとコーチから言われると10分経ってコーチが去ったのを見届け風呂場へ直行したとか、早朝に散歩してグラウンドまで来いと言われたら寮を出たところで自転車を漕ぎ出したとか、特打ちをやると称してパチンコ屋へ抜け出したとか、何とも昭和的な不良エピソードが尽きない。同じヤクルトの山田哲人はこの手の悪たれではなかったが、履正社高の岡田龍生監督いわく、素質はあるのに積極性はなく、プロになろうという強い意欲も感じられず、練習も型通りにしかこなさず、そもそも野球がさほど好きには見えなかった。それが2年の秋から、監督にも動機がつかめないまま、急にプロを本気で目指すようになり、急激に力を伸ばしていくものの、そのマイペースにして人の話をどこまで聞いているのやらと評される立ち振る舞いは今に至るまで変わっていない。その山田の3学年先輩になるT-岡田は、履正社の岡田監督によれば、高校時代から周囲の誰をも感心させるほど素直にして真面目で、プロになるという目標を明確に持ち続け、指導者の教えに耳を傾けてたちまちのうちに吸収し、自分で設定した練習メニューは必ずこなし、勉学でも一生懸命に取り組んで各科目の教師たちに一目置かれていたという。そうか、この中ではT-岡田が一番こつこつ真面目にやってきたのか、やっぱりプロ野球選手ってのはこうでなくっちゃ、と言いたいところだが、オリックスファンがこぞって抱いているイメージとして、T-岡田はここ一番に弱い。まず一般論から始めると、攻撃側にとってのチャンスは、投手にとってのピンチであるからして、投手の側はギアを上げてくるものだ。いっそう丁寧にコースを突き、変化球の割合を増やす。フォームに緩急をつけてタイミングをはずしにかかる。人によっては球速さえ上がる。だからほとんどの打者はチャンスで打てない。得点圏打率が普段の打率よりも高い打者なんてのは数が限られているからこそ特筆される。何もT-岡田だけがチャンスに弱いわけじゃない。そうは言ったって、チャンスに強いバッターはいる。生涯通算で、となると際立った打者もあまりいないらしいのだが、シーズン単位では確かに出てくる。畠山和洋は打点王を1度獲得した。山田哲人は日本シリーズで史上唯一の一試合3本塁打を記録した。 T-岡田は元々速球に強い分、縦の揺さぶりに弱い傾向があるからして、落ちる球で三振や凡打に仕留められやすい。だがそれ以上にファンにとってもどかしいのは、どうでもいい場面で打ち、試合中最大の見せ場で凡退する勝負弱さだ。これは技術ではなくメンタルの問題だ、度胸が足りんのだ、と思うのもわからんではないが、そういう人こそ自分自身に照らし合わせて考えてみてほしい。あなた自身は緊張がピークに達する大事な局面で常に力を発揮してきただろうか?どんな緊張でも乗り越え勝利を収めてきただろうか?短期的にはともかく、人生を通じて緊張に強いなんて人間がこの世に一人でも実在するだろうか?傑出した肉体を持つプロ野球選手たちにしたって、小学生のうちから猛練習に耐えて競争に打ち勝ってきた彼らにしたって、当然一人の人間だ。手を抜いて勝てる相手ならともかく、自分と同等かそれ以上の化け物が集うプロの世界で、一つのプレーが年棒に数万円、ことによると数百万円反映される状況下で、冷静にプレーしろとはそもそも酷な要求ではなかろうか。罪を犯したことの無い者のみがこの女に石を投げよ、とキリストは言ったが、ここ一番に強い者、人生の大事な局面で力を発揮してきた者のみがT-岡田に石を投げよ、と私は言いたい。そして当のT-岡田が苦しそうにしている。やろうとしていることが出来ていない、自分のせいでチームに迷惑をかけてしまった、期待に応えられず申し訳ない、そんな談話ばかりが私たちファンの目に毎年飛び込んでくる。他の人が言うならともかく、高校時代からその生真面目さを周囲に目撃され続けてきたT-岡田は、ポーズではなく大真面目にそう信じ、責任を感じ続けてきたのではなかろうか。ちょっと待て、支配下登録されている選手だけで70人いる、コーチも裏方もいる、そして最も重い責任は監督が担うのが当然だ。それなのに強打者だからといって、70人いる選手の1人に過ぎない身で、そこまで進んで申し訳なく思う必要なんてあるのか?しかしだ、この要領の悪さがまた、不良ともマイペースとも違った意味で人間臭い。悩むのがまた悪循環だと他人から酷評されても、なお苦悩をやめられない。もっと楽になったら、と言われても楽になれない。誰の得にならなくても、やっぱりいつまでも考え続ける。人間とは考える葦である、というパスカルの言に従うなら、T-岡田は果てしなく人間だということになる。いや、畠山だって山田だって、果てしなく考え続けている。そうでないと一軍のせめぎ合いの中で生き残れる訳がない。ただT-岡田の場合は、その苦悩が表出し、見る側に伝わりやすい。それをもどかしく感じる向きも、苛立たしく感じる向きも、当然あると思う。私自身はT-岡田の苦悩に共感し、はらはらしながら、それでも見守り続けたい。苦悩を乗り越えた時の、チャンスに見事応えた時の解放感もまた、T-岡田の場合はいたく伝わってくるからだ。そのT-岡田が今年は主将として名実ともにチームを引っ張っている。チームの連勝も連敗も、この人は自分の責任だと信じて必要以上に背負い込んでいくのだろう。勝利の喜びも敗北の苦さも、T-岡田には余人の何倍にも感じられるのではないだろうか。良きにつけ悪しきにつけ、それは大真面目な人間だけの特権だ。最後に、T-岡田の打率と得点圏打率とを年度別に列挙させていただく。      打率   得点圏打率 2010年  .284     .325 2011年  .260     .272 2012年  .280     .321 2013年  .222     .177 2014年  .269     .284 2015年  .280     .314 2016年  .284     .269 果たしてこれがチャンスに弱い人間の実績だろうか?本人の苦しそうな表情が事実とは裏腹のネガティヴなイメージを醸成してしまっているとしたら、つくづく損な性分だと思う。そこがまた、自分にとっては応援せずにおれないところだ。

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